第2章 奪われた初恋と手に入れた女
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その日、京都の禪院本家は、朝から光に包まれたように華やいでいた。
白砂の庭には季節外れの花が飾られ、古い木々のあいだから落ちる陽光が儀式殿の白壁に金色の影を添えている。
仁美 の打掛は神戸の本家が誂えたもの。
白地に藤と金糸が流れるように散り、上品でありながら圧倒的な存在感を放っていた。
それでも、もっと仁美の目を引いたのは直哉の姿だった。
黒紋付に金の家紋。
普段の皮肉めいた笑いではなく、今日は珍しく、どこか柔らかい表情を浮かべている。
(……綺麗やなぁ。)
胸の奥にふっと浮かんだ言葉に、自分でも驚くほどだった。
親族が整然と並び、古式の儀が静かに進む。
その中で二人が向き合った瞬間――
直哉は小さく笑い、視線だけで仁美へ触れるように言った。
「……似合うな、その姿。」
柔らかく落とされた声に、仁美は思わず息を呑んだ。
「……ありがとう。うちも……直哉…よう似合っとる思うわ。」