第2章 奪われた初恋と手に入れた女
呼ばれた名前は、いつもより低くて、やけに優しい響きだった。
首筋が震えるたび、仁美の胸の奥にもまだ消えきらない熱が残っていく。
直哉は少し身を起こし、仁美の頬を片手で包んで顔をこちらに向かせた。
細い指が濡れたまつげをそっとなぞり、そのまま唇へ重ねる。
啄ばむようなキスが、いつの間にか深く、ゆっくりとしたキスに変わっていく。
互いの呼吸を確かめるような、余韻を味わうような長い口づけ。
ようやく唇を離すと、直哉は少し笑って、指先で仁美の頬をなぞった。
「……これから、仲ようやっていこか。」
淡々とした声音やのに、妙にあたたかくて、逃げ道を与えない言い方。
その言葉を聞いた瞬間。
仁美の胸には、かつて自分が選んだ“最後の想い”が静かに浮かんだ。
(……好きになったんは、うちのほうやった。)
政略で決まった婚約も、歪んだ夫婦関係も、禪院家の思惑も、悟との複雑な過去も。
それでも直哉を選んだ唯一の理由。
直哉を好きになったのは仁美だった。