第1章 壊れぬ妻と飽きない夫
「……処理、してくるわ。」
「ほんなら頼む。今日は疲れたわ。」
そのまま彼は廊下を伸びをしながら歩き去る。
仁美 は何も言わずに部屋に足を踏み入れた。
まだ甘い匂いの残る部屋。
しわになったシーツ。
散らかった衣服。
そしてーーー。
床に落ちているゴムの袋。
仁美 はそれを拾い上げ、しばらく指先で弄んでから、廊下を振り返った。
「……直哉。」
「ん?」
振り返った夫に、仁美 は静かに言う。
「アンタさ。跡取り欲しくて外の女抱いてんのやろ?やのに、これ使ってどないすんの。」
直哉は一瞬だけ目を細め、次の瞬間、肩をすくめて笑った。
「病気、怖いやん。俺、デリケートやねん。」
「禪院家がそんな女あてがうと思う?」
「……しらんけど。念のためや。」
その言い訳の軽さに、仁美 は呆れたように息を吐いた。
ぎゅっとゴムの袋を握りつぶすと、息と共に声を出した。
「……真面目にやってよ…。」