第1章 壊れぬ妻と飽きない夫
廊下の灯りは落としてあるのに、奥の部屋だけが柔らかく明るい。
その明かりに混じって、女の笑い声と、聞いたこともない――優しい、夫の声が漏れていた。
「……直哉くん……もっと……。」
「せやせや、泣かんでええよ。かわええなぁ。」
仁美 はその前で立ち止まる。
ギシギシとベットが軋む音と、合わせたような女の嬌声。
その中で何が行われているかなんて見なくても分かった。
仁美はため息を吐いて、腕組みをしながら壁に背中を付ける。
少し待っていれば、もうすぐ終わるだろうとジッとその音を聞いている。
情事が終わる気配がして、やがて襖が少し開き、直哉が片手を上げた。
「おー……帰っとったんか。はよ言えや。ビビるやろ。」
声は軽く、悪びれもなく、浮気現場のすぐ隣に正妻が立っているという事実すら、まるで特別ではないかのようだった。
夫が女と絡み合っている部屋に入って、声をかけろと言うのか…。
そんな趣味はないので、仁美 はゆっくり頷いた。
いや、直哉なら喜びそうだ。