第2章 奪われた初恋と手に入れた女
――なぜ、悟ではなく直哉を選んだのか。
答えは、ひとつではなかった。
返命を持つというだけで、周囲の呪力を勝手に吸い、身体を壊し続けた幼少期。
悟がそばにいる時だけ、不思議と症状は軽くなった。
悟といれば“楽”だった。
守られている安心もあった。
――でも。
楽だからこそ、自分が悟に依存してしまう未来が、はっきり見えてしまった。
悟は優しすぎる。
自分を守るためなら、きっとなんでもしてしまう。
それは、悟の未来を奪うことになる。
……悟くんは、誰かを背負うべき人じゃない。
仁美 は薄暗い廊下を歩きながら、静かに思った。
悟は世界を救うほどの才能を持っている。
その隣で、自分が“助けられ続けるだけの存在”になることが、怖かった。
悟は自分を愛してくれる。
だからこそ、選べなかった。
一方で禪院直哉。
初めて会った時から、彼は一度も仁美を“守るべき弱者”として扱わなかった。
「返命を使えるんなら、使え。倒れるなら倒れ。俺が拾ったる。」