第2章 奪われた初恋と手に入れた女
仁美の気持ちを無視しているのは、悟の方だと言わんばかりの口調だった。
仁美はゆっくり唇を開いた。
「……私、直哉くんと…結婚するよ。」
その時始めて仁美は悟の顔を見た。
彼女の目からは少しの迷いも無かった。
悟の目が痛いほど動揺し、直哉の口元に勝ち誇った笑みが浮かぶ。
「ほらな。」
直哉は悟の前を通り過ぎ、仁美の肩に手を置いた。
「選ばれへん男は、ただ見とくしかないんやで。」
いけすかない男の言葉で、初恋の終わりが、その場で静かに決定した。
直哉は仁美を連れ立ち、広間の外へ歩き出す。
悟は二人の背中を見上げるが、仁美は悟を見ることは無かった。
閉まりかけた襖の向こうから、かすかに悟の声が届いた。
「……仁美。本当に……良かったの?」
仁美が返事をする前に、襖が完全に閉じた。
広間を出て、静かな廊下に出た瞬間だった。
仁美 は胸の奥でひっそりと痛む初恋の終わりを感じながら、ふっと息を吐いた。