第2章 奪われた初恋と手に入れた女
禪院家に来た時も、直哉は言った。
「使いもんになるなら価値がある。なら、お前は“使える側”に回れ。」
甘くない。
優しくない。
救ってくれもしない。
でも――。
自分を“弱者扱い”しない唯一の男だった。
そして、返命と縁火を持つ自分を、守るものではなく、“武器”として扱った最初の人間だった。
悟の側にいれば、自分は“守られる人”のまま。
直哉の側にいれば、自分は“使える人間”でいられる。
その違いは、返命を持つ仁美にとってとてつもなく大きかった。
直哉は廊下を歩きながら、ちらりと仁美を見る。
「顔、暗いで?」
「……別に。」
「悟くんのこと、惜しんどるんかと思ったわ。」
「そんなこと、考えてへん。」
嘘ではなかった。
悟には“恋”を向けられなかっただけ。
最後に悟の顔が浮かんだとき、心の中でそっと呟いた。
(……ごめん。)
悟を傷つける選択だった。
でも、これが自分の未来だと思った。