第10章 帰還の契りと見えぬ手
「………。」
悟が何に苛立っているか。
何を求めているか分かっている。
分かっているのに。
仁美が今天秤に掛けているのは、五条悟の後ろ盾が無くなった後の、禪院家での自分の立場だった。
そんな自分の思惑さえ嫌気がさすのに…。
(後ろ盾が要る結婚って、なんなん?)
そんな自分の心の中の独り言に失笑する。
ふと、視線を上げると、先ほどよりもさらに近く悟の顔があった。
触れるか触れないかの唇の位置で、仁美は体よりも言葉が出た。
「…うちを困らせんといて。」
悟には何故か行動よりも、言葉の方が効くと思った。
「…………。」
悟は本当に嫌そうな顔をして、諦めたように仁美の肩に頭を置いた。
彼の柔らかい髪が頬に触れると、少しだけその顔を悟の頭に傾けた。
「…まぁいいし…。どうせ離婚したら僕のところに戻ってくる。」
その口調が、昔の悟を思い出せた。
彼のことは好きなのか分からなかったけど。
こうして二人で過ごす時間が嫌いな訳では無かったと。
そんなことをふと思い出した。