第10章 帰還の契りと見えぬ手
悟は仁美の頬を撫でながら顔を近づけた。
「仁美これだけ?これだけで僕から何が聞きたいの?」
唇が触れそうな距離でも触れない。
悟の対価はいつだって仁美自身だ。
「…悟くん…それ以上はあかんよ。」
仁美は悟の顔を真っ直ぐに見てハッキリ言った。
そんな仁美に悟は脱力したように顔を俯かせる。
「はぁぁぁ…。本当にこれじゃあ愛人なんて名前だけじゃん。」
悟の頭が仁美の肩にもたれると、不貞腐れたようにしばらく仁美から離れなかった。
「うち別に悟くん愛人にした覚えないよ。」
「してるよ。じゃければ僕がわざわざ仁美の後ろに立たない。」
認めない仁美に腹が立った。
悟は仁美の肩に手を置くとその力を強めた。
「仁美、いい加減に対価が無いのはうんざりだ。」
悟の名前だけ借りていることに彼の限界が近いようだ。
仁美は顔色は変えなかったが、目隠しをしていても悟の声色で、彼が苛立っているのは分かっていた。