第10章 帰還の契りと見えぬ手
愛してしまったらあんな男でも離れれば恋しくなるモノだ。
しかし、彼の望みは一貫して禪院家の次期当主だ。
求められているのは禪院家の嫁。
仁美ではない。
仁美は応接間の大きいソファに気怠げに座っていた。
一人でこれから先どうするかを考える為にここに来た訳だが…。
「このチョコうま。」
「……………。」
それ一粒3,000円するからね。
そんなチョコを味わうでも無く口の中に含む悟をジトッとした目で仁美は見た。
久しぶりに見た悟は白いワイシャツを着て、顔には大きな目隠しをしていた。
「……それ見えてるの?」
どんな服装でもサングラスしか見たことが無かったので、綺麗な顔が隠れるのは勿体無いと素直に思った。
「見え過ぎて疲れてるから今がちょうどいいんだよ。」
「…そうなんだ。髪の毛も伸びたままだね。」
「短い方が好き?」
「…どっちも似合うよ。」
仁美は自分から悟に会話を振っているようで、その内容には興味が無さそうだった。
悟はそんな仁美を見ながら出された紅茶で口の中で溶けたチョコを喉に流した。