第9章 揺らぐ灯と交わらぬ影
白椿が目に入ると、直哉はあからさまに嫌な顔をした。
そんな直哉を気にも止めないで、白椿は後輩の芸妓に目配せをした。
白椿の目配せを受け取り、若い芸妓達は直哉の座敷を後にした。
その様子を見ても、直哉は気にもしないで酒を口にした。
「ようけ召し上がってはりますなぁ。」
チクリと白椿の目線が直哉を刺した。
「なんや。お前は呼んどらん。」
つれない直哉の返事でも、白椿はその笑みは崩さない。
直哉の前で立ち止まると、膝を折り、背筋を真っ直ぐにしたまま静かに腰を下ろす。
「奥様に逃げられはったて、花街に入り浸ってはるて、噂になってはりますよ。」
「要らんから、ここにおるんや。」
そう言って酒を飲む直哉の姿は、少しも『要らない』とは感じない。
こうして仁美のことで下らない話をしたくないから、白椿を呼ばなかったのだ。
白椿は知っていた。
こうして花街に入り浸っている割には、直哉は自分の宿には芸妓を呼んでいない。
「うちらは泣いてもよろしおすけど、奥様にはお優しゅうして差し上げんとあきまへんえ。」