第1章 壊れぬ妻と飽きない夫
「ほら、言ったでしょ。仁美はちゃんと強くなれるって。」
その時間は、静かで、それでいて幸福に満ちていた。
禪院家は代々、「女は戦力にならない」という家訓を疑いもなく信じてきた。
女は術式があっても使わない。
戦闘には出さない。
役割は“家をつなぐ器”でしかない。
禪院家の中で平然と囁かれる。
「女は産むだけでいい。戦いは男の仕事だ。」
「術式があっても、女に使い道はない。」
「戦場に立たせる価値なんかない。」
そんな極端な男尊女卑が根底にある家系だった。
だが――
仁美 は“例外”だった。
返命――他者の呪力を肩代わりできるという希少性。
縁火――術師の呪力の底上げができる補助術式。
この二つは、女であろうと“禪院家の利益”になる。
そして、仁美 はただの術師ではなく、神戸の名門財閥の娘でもあった。
金、術式、家柄。
禪院家が欲しがる条件がすべて揃っていた。
だからこそ、禪院の大人たちは冷たく、当然のように言った。