第1章 壊れぬ妻と飽きない夫
「……こう、かな。」
「うん、上手い。仁美、ほんと飲み込み早いね。」
悟の声は柔らかく、嬉しそうで――。
仁美 が少し照れて俯くのを、悟は見逃さなかった。
次に悟は、仁美 の手を包み込んで言う。
「それから……これは“縁火”(えにしび)。領域内の特定の相手の呪力の流れを、ちょっとだけ増幅する術式。」
「増幅……?」
「うん。でもこれ、俺みたいな術式にはあんまり効かない。五条家とは相性が良いとは言えないんだ。」
悟は軽く笑う。
「でもね。仁美 が使えば、守りたい人を一気に強くできる。“反響”と違って精神に負荷がないし、返命との相性がすごく良いよ。」
「じゃあ……二つとも覚えたら、体調も……良くなる?」
「うん。だいぶ楽になると思う」
悟はまっすぐな瞳で言った。
「仁美に……苦しいの、もうさせたくないから。」
仁美 が術式を覚え、制御を身につけるにつれ、倒れる回数は目に見えて減っていった。
悟はそのたびに、年相応の子どもみたいに喜んだ。