第9章 揺らぐ灯と交わらぬ影
「産むんは誰でも構へん。俺の意思やない。当主になって家継ぐ。それだけや。」
その言葉に仁美はやっと直哉を放した。
傷付いた仁美の顔を見ないように直哉は背を向けて歩みを進めた。
直哉の姿が消えるまで、仁美はしばらくそのまま立ち尽くしていた。
直哉の部屋に戻って襖の前で体を止めた。
部屋の中ではまだ泣き声が聞こえていた。
仁美は重たい手を上げて襖を開ける。
薄暗い部屋の中に廊下の光が入り込んで、先ほどと変わらない光景が目の前に広がる。
仁美は息を吐いて部屋の中に入った。
「なんで泣いとるん。自分から直哉に抱かれに来たんちゃうん。」
自分でも冷たい声にビックリした。
仁美の言葉でようやく女はその顔を上げた。
仁美は女に近付くと彼女の手を取ってその体を見た。
彼女の体に傷や痣は無かった。
あったのは、直哉が唇を付けたであろう赤い痕だけだった。
その体が彼女が直哉にどんな風に抱かれたのか、仁美に教えていた。