第1章 壊れぬ妻と飽きない夫
悟が手を握ったまま座るだけで、仁美 の胸の苦しさがすうっと軽くなっていく。
「……本当に、楽……。」
悟は嬉しそうに笑った。
「ほら、言ったでしょ。よかった。」
それから悟は、神戸の屋敷にしょっちゅう顔を出すようになった。
術式による体調不良が続いていた頃、悟はある日、仁美 に言った。
「ねぇ、仁美。ただ呪力を“吸うだけ”だと、身体がもたないよ。コントロール覚えないと。」
二人は神戸の屋敷の庭、白い藤棚の下で向かい合うように座っていた。
悟は手を伸ばし、仁美 の指先に自分の指を重ねる。
「まずは……簡易領域。これ、必中効果っていうのがあってね。」
悟が指を動かすと、薄い膜のような領域が手元に広がる。
「返命は“受ける側”の術式だろ。だから、どこまで入れていいか“指定”できれば、勝手に呪力を吸わなくなる。必中効果を逆に利用するんだよ。」
仁美 は必死に悟の指の動きを真似する。