第9章 揺らぐ灯と交わらぬ影
直哉の声と共に、女の声も聞こえた。
声の他に聞こえる部屋を軋ませる音が中でなにが起きているか仁美に知らせる。
(……嘘やろ…。)
全身の血が逆流するような感覚だった。
鼓動がおかしいほど大きくて、胸が全身を締め付ける。
仁美はただそこに立ち尽くすしか出来なかった。
手足の先が冷たくなっていき、顔から血が引くと唇すら白くなる。
聞きたくもない音を聞きながら、勝手に涙が溢れた。
直哉が他の女を抱いているなんて気付いていた。
だけどそれが現実として目の当たりにした時に、仁美は初めて痛みを覚えた。
(信じられへん……家に連れて来るとか、どうかしとる。)
吐ききれないほどの罵倒が頭の中を埋めるのに、声にも出せずに体も動かなかった。
自分が乗り込みたいのか、逃げたいかも分からなくて。
仁美はただ自分の夫が他の女を抱いているのを聞いていた。
いつまでそこに居たのかは分からない。
気がつくと中の音は聞こえなくなって、目の前の襖がスッと開いた。