第8章 禪院の道具と女の本音
少しでも動けば触れる距離。
その距離に心地の悪い緊張感で唇が震えた。
「…うち……うちの旦那は直哉や。ほかの人ちゃう。」
緊張で言葉が途切れ途切れになった。
直哉の返事を待つ仁美の唇はまだ震えていて、直哉はやっとその唇に触れた。
軽く触れた唇は深みを増して何度も押し付けられる。
甘ったるい白粉の匂いに仁美は顔を歪めた。
そんな仁美の顔を確認して、直哉は仁美をベットに寝かせる。
仁美の手を握り、指を絡めてベットに押し付けた。
吐息と熱い息に混じって舌が入ってくると、仁美は観念したように目を閉じた。
「…直哉…。」
「…なんや…。」
直哉の指が仁美の服にかかり、脱がそうとしている。
その手を仁美の言葉が止めた。
一瞬不機嫌になりながらも、直哉は指を止めて仁美を見る。
「…………。」
仁美は直哉と目が合うと、言葉を繋げることが出来なかった。
ーーーうち以外の女を抱かんといて。
たった一言が出てこなかった。