第1章 壊れぬ妻と飽きない夫
けれど、この夜に限って、直哉は動かなかった。
「……今日はここで寝るわ。動くのめんどい。」
そう言うと、仁美 のベッドにそのまま身体を預け、呼吸を深くする。
数分もたたないうちに、直哉の寝息が静かに落ちていった。
仁美 はその寝顔を一瞥し、ゆっくりと目を閉じる。
(……悟くん)
今日の会合で見た、あの白い髪と、変わらない笑顔を思い出す。
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仁美 は、神戸に本家を構える名門財閥の娘だった。
呪術に関わりの薄い家系のはずだが、突然、仁美に“原因不明の体調不良”が続くようになった。
微熱、倦怠感、急な呼吸困難――。
病院では説明がつかず、医者も原因に困惑した。
そんな折、相談を受けたのが、五条家だった。
「呪術的な理由かもしれん。一度、五条の坊と会わせてみては?あそこの坊は恐ろしいほど目が良い。」
そう言われた 仁美 の親と仁美 は、まだ幼い身でありながら、神戸の屋敷の応接間で五条家を待っていた。