第6章 檻の中の蜜と矜持
(俺が禪院家の術式知らんわけないやろ。)
惚けた仁美の顔を見て、直哉は目を細める。
実際に直哉の知らない術式が目の前で発動された。
仁美は直哉から目線を外すと、ゆっくり目を瞑った。
胸の奥に、禪院家の知らない時間が、静かに沈んでいる。
それは、五条悟の元服の儀が終わってからの時間だった。
元服の儀を終えた悟の周囲に集まり始めた術師たち。
結界師、補助術師、術式研究者、呪具師。
その誰もが、悟を見る目で仁美を見ていたわけではなかった。
仁美は、悟の背後に立ちながら、呪力の流れを見て、術式の構造を聞き、縁火に通るもの、返命に耐えるものを、静かに選び取っていった。
最初は半信半疑だった視線が、一度、仁美の術式を通しただけで変わる。
呪力の質が変わる。
術式の伸びが変わる。
回復の速度が変わる。
その変化が、肩書きよりも雄弁だった。
紹介ではなく、結果で繋がった関係。
悟を介して始まりながら、少しずつ仁美自身の手の中に積み上がっていった術の縁。
禪院家が知らない術式。
禪院家が管理していない回路。
そのすべてが、今、仁美の中に沈んでいる。