第6章 檻の中の蜜と矜持
仁美は、ゆっくりと円の中央に座った。
畳に正座し、背筋を伸ばすと貼られた札が、微かに音もなく震え出す。
目を伏せ、呼吸を整え仁美は術式を発動させた。
床の呪印が淡く光を帯び、部屋に満ちる呪力の流れが、一段階、深くなる。
それに呼応するように、兄の体からも呪力が溢れ出した。
先ほどよりも、明らかに違う重さと密度が増している。
「……面白いな。」
兄はそう呟くと、別の呪印の中心へと歩いた。
壁際、床に描かれた別の呪印の円。
その中心に足を踏み入れた瞬間空気が歪み、直哉の兄の姿が揺らぐ。
そして、次の瞬間には直哉の兄の姿は消えた。
部屋の中に、兄の気配はない。
術式で移動させられたのだと、すぐに分かった。
直哉は仁美を見る。
「は?今の術式……誰のや。」
直哉が思わず声を出すと、仁美は一瞬だけ視線を上げ肩をすくめた。
「…さぁ。禪院家の術式ちゃうん。」
惚けたように笑みを浮かべて言った仁美に、直哉ははっと息を吐いて笑った。