第6章 檻の中の蜜と矜持
直哉の兄が部屋の中央に立ち、仁美は一度、深く息を吸ってから歩み寄った。
そして、そっと彼の胸元に手を伸ばす。
指先が触れた瞬間、仁美は自分の呪力を落とす。
薄く、目に見えない残穢の痕跡が、兄の体に刻まれていく。
その様子を見て、直哉が露骨に顔を顰めた。
「……それ、触らなあかんのか。」
低く不機嫌そうな直哉の声に、仁美は一瞬だけ振り返る。
「……落とさな、縁火は飛ばせへん。」
「ふーん。」
納得していない顔のまま、直哉は壁にもたれる。
一方で、直哉の兄は目を見開いていた。
「……来てる。」
呟いた瞬間、兄の呪力がはっきりと跳ね上がる。
「……はっ。なるほどな。縁火……これは、確かに厄介だな。」
兄は自分の手を見つめ、確かめるように呪力を巡らせる。
「今の俺なら直哉でも倒せるかもしれん。」
その言葉に、直哉は鼻で笑った。
「アホ言え。」
肩をすくめ、軽く言い返す。
「その前に、俺が返り討ちにしたるわ。」