第6章 檻の中の蜜と矜持
直哉は歩きながら、何気ない動作で仁美の背中に手を添えた。
仁美は一瞬だけ驚いて、直哉を見る。
直哉は前を向いたまま、低く言った。
「この一週間でな。仁美の実家から、えらい金払いええ話が何本も来とる。」
まるで世間話のように言うが、その言葉の裏にある意味を、仁美は分かっていた。
「……そうなん。」
仁美が小さく返すと、直哉は鼻で笑う。
「檻に入れとくには、惜しい女やわ。」
そのまま歩調を変え、仁美を連れ出そうとした、その時。
「おい、直哉。」
横から声がかかった。
振り向けば、禪院家の男が一人。
直哉の兄の一人だった。
視線は直哉ではなく、仁美に向いている。
「仁美に仕事が来てる。本家として通す話や。時間をもらう。」
その瞬間、直哉の空気がわずかに冷える。
「……はあ?」
兄を一瞥し、露骨に機嫌の悪さを滲ませる。
直哉にとって、兄たちは“家にいるだけの男”でしかない。