第6章 檻の中の蜜と矜持
足を踏み出した瞬間、力が抜けたように膝がわずかに揺れる。
空気が、違った。
人の気配があり、禪院家の“日常”が戻っている。
その回廊の先で、仁美は直哉と出くわした。
「……ああ?」
直哉は足を止め、一瞬だけ目を細める。
「本家におったんか。」
式が終わり、花嫁が側にいなかったことなど、気にも留めていない口ぶりだった。
「…うん…。」
仁美が小さく答えた。
その返事の短さと、立ち姿の不安定で直哉はすぐに察した。
視線が、仁美の足元から肩、そして顔へと移る。
「……えらい、力入ってへんな。」
少し間を置いて、低い声で続ける。
「体罰でも食らったか。」
仁美は一瞬だけ視線を逸らし、それから、何でもないように言った。
「大したこと、あらへん。」
その言葉とは裏腹に、呼吸は浅く、背筋にいつもの張りがない。
直哉は何も言わなかった。
ただ一度、鼻で小さく笑う。
「……ふぅん。」