第5章 白銀の面影と漆黒の断絶
その背中を、仁美は黙って見送った。
直哉の姿が見えなくなるのを確認してから、仁美はゆっくりと身支度を整えた。
部屋にはもう、昨夜の熱も気配も残っていない。
あるのは、静けさだけだった。
一方、別の棟。
悟は窓際に立ち、車に乗り込む直哉の背中を見下ろしていた。
何かを言う気はなかった。
言ったところで、変わるものはないと知っているからだ。
そのとき、控えめなノックが響いた。
悟が振り返るより早く、襖が開き、仁美が姿を見せる。
「……入るで。」
悟は一瞬だけ目を細め、すぐにいつもの笑顔を浮かべた。
「うん。どうぞ。」
仁美が一歩中へ入った瞬間、悟は自然な動作でその肩を抱く。
仁美の身体を引き寄せ、胸元に軽く触れさせる。
昨夜直哉の元に残した仁美の体を確かめるように抱き締める。
直哉を見送った直後だというのに、悟の腕の中は、不思議と静かだった。