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時計塔と忘却の行方[dzl]

第42章 それから


 あの時、もっとたくさん話せばよかったとか、もっと言いたいことや聞きたいこともあったのにとか、今になって後悔することもあるけど、それも全部、僕にとっては大切な思い出だ。
「おーい、ユメト、これどうやるんだっけ?」
 あれから、十年経った。僕は時計塔の管理人となり、今は友達と時計塔の掃除や修理をしている。
「それはね……」
 楽しいことばかりではなかった。あのあと、僕はお父さんとお母さんに言ってピアニストをやめるなんて言い出した時は酷く怒られたし。子どもだった僕はあの後時計塔に近づくことはしばらく出来なくて、十年近く封鎖されていた。
 そして、なんとか時計塔の重要性を役所に訴え続け、正式な時計塔管理人になった時は酷い有様だった。ボロボロになった時計塔、動かなくなった針とレバー、埃を被ったシャンデリア。僕は一人で時計塔の掃除と修理をし続け、傍らでバイトをしながら生活していたある日、かつての友達と一緒にこうして管理をするようになった。
「あ、ユメト、覚えてるか?」
「何?」
「俺たち、あそこに侵入しようとしたんだったよな」
「ああ……あの時僕を見捨てた時の」
「うっ……あん時は悪かったって」
 ふと視線を逸らした先に、もうぼんさんはいない。コレクション部屋となっていたあの場所もものけのからで、最初から管理人なんていなかったみたいに静かだった。
「あの時いた管理人、なんか怒ると魔法を使うって噂があったんだよ」
「ええ、それ本当?」
「本当本当! あの時の管理人、名前なんだっけなぁ……えーっと」
「ぼんさん、でしょ?」
「ああ、そうだったそうだった!」
 その時、ゴーンゴーンと頭上で鐘の音が鳴った。時計が動き出したのだ。
「おお、やったじゃん、ユメト! 時計が動いたぞ!」
「ズレてないか見てこなきゃ」
「お、俺もやるやる! どうやるか教えてくれよ!」
 僕はすっかり、ピアノを演奏しなくなったけど、時々この時計塔のどこかでピアノの音が聞こえてくる気がした。あのグランドピアノはどこにあるんだっけ。見つけたら、一曲プレゼントしよう。

 おしまい
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