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時計塔と忘却の行方[dzl]

第39章 あちらの世界


「う〜ん……」
「あ、目覚めましたよ」
 眩しさに目を開けると、目の前に誰かの顔。
 ここはどこですかと聞くより早く、そばでよく聞いた声が飛んできて僕は安堵した。
「ユメトくん起きた? 良かった〜」
 ぼんさんの声だった。
 僕は上半身起こして周りをよく見ていると、ぼんさんを含める五人に囲まれて倒れていたみたいだ。僕に最初に声を掛けてきた金髪の男の人の他の三人は、僕がよく知っているあの三人のはずなのに、見た目が大きく違って言葉を失った。
「子どもじゃなくなったけど、おんりーだよ、ユメトくん」
「こんちゃっちゃ、おらふくんやで♪」
「うす、おおはらMENだけど分かるか?」
「分かる……けど……」
 本当に、三人は子どもじゃなかったんだ。残念な気持ちと、これは嬉しいことなのだと思い込みたい僕の心の中はとても複雑だった。ぼんさんや三人が僕を騙したくてなっていた状況じゃないんだと分かるから、ますます心が苦しい。
「そして、僕がドズルだよ。初めまして」
「初めまして、ユメトです……」
 初めまして、は違う気がした。僕はこの金髪で口ヒゲのあるこの男の人を、もっと別の場所で会ったことがあるのだ。あれが夢だったのかなんなのか分からないけれど、向こうにとっては、僕と初めましてなんだろうな。
「時計塔が急に揺れてこっちに来ちゃったみたいなんだけど、ユメトくん、覚えてる?」
 と聞いてきたのはぼんさんだ。僕がなんとなくそうなんだろなと頷くと、ぼんさんはどこかを指差した。
 僕の後ろには、黒くて四角いゲートが佇んでいて、うっすらと紫の膜が張ってあるように見えた。ネザーゲートはこれだ、と僕は思ったが、体は動かなかった。
「あのゲート通ったら、多分元の時計塔に戻れるから……」とぼんさんは一旦言葉を切った。「最後に、ユメトくんのピアノ演奏聞きたかったなぁ」
「ぼんさん、思い出したの……?」
 僕はぼんさんを見つめた。ぼんさんはニコリと微笑んで僕の頭をぽんぽんと撫でてくれた。目が見えても見えなくても、やっぱりぼんさんはぼんさんなんだなと思ったけど、僕は泣かなかった。だって僕、男の子だもん。
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