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時計塔と忘却の行方[dzl]

第38章 開かない扉


 僕たちは長い長い時計塔の階段を下りて、広間まで戻ってきた。
 というのは、あの不思議な草原から来た道を引き返した時には、すでにそこはアスレチックではなく、螺旋階段へと姿を変えていたのだ。僕らは難なく階段を下り切って、底なしになっていたはずの広間も普通に戻った状態のところにやって来ていた。
「あそこです」
 と僕が指したのは、天井からぶら下がる細い通路。僕はあそこから落ちてぼんさんと出会った。僕はすっかり元通りになった時計塔の中をなんの苦労もしないままその通路のところまで来て、みんなで邪魔な荷物を避けた。
 こうして一緒に何かするのも、もう最後なのかな。
 僕は不安をなんとか押しやった。ぼんさんやみんなにはちゃんと帰る場所がある。僕にお父さんとお母さんがいる家があるように、ぼんさんたちにだって帰る場所があるのだ。
「ここが、開かない扉か……」
 邪魔な荷物を避けたあと、ぼんさんがぽつんと呟いた。それは別れまでへのカウントダウンのように聞こえた。ここまで三人の会話も少なくなっているし、みんなも何か思い出したのかな。
 ぼんさんがドアノブを捻ると、意外にもあっさりと扉が開いた。軋むこともなく開いた扉の先には、僕がさっき見た黒くて四角いゲートがあり、これがネザーゲートなんだと思った。
「ああ、これこれ! 探していたのはこれよ!」
 とぼんさんは歓喜の声をあげたが、僕はちゃんと笑えているか分からなかった。
「ここでお別れだ、ユメトくん」
 そうきっぱり言い切ったのはおんりーだった。僕はなんとか頷いてみせたけど、他になんて言ったらいいか分からなくて黙っていた。
「せっかく仲良くなれたのに、ここでお別れなんて……」
 と言ったのはおらふくんだった。おらふくんは、元の世界にいた記憶はまだ取り戻せていないのだろうか。それとも、心が戻らなきゃいけないって、分かっているからなのだろうか。
「時計塔の管理は、ユメトに任せることになるが……」
 MENはそう言いながら僕の方を見たので、僕は深く頷いた。
「うん、任せてよ!」
 僕一人で時計塔の管理が出来るのか不安だったけど、頷くしかないと思った。
「じゃあ……」
 とぼんさんが何か言おうとした時、急に視界が傾いて僕は体勢を崩した。時計塔が揺れているのだ、と気づいた時には、僕を含めるみんながネザーゲートへと吸い込まれていった……。
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