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時計塔と忘却の行方[dzl]

第6章 人柄


「ああ、そうだったのね。大変だったね」
 ぼんさんは僕の話を聞き終えると意外にもあっさりとそう言った。
「僕のこと、怒ったりしないの?」
「怒らないよ。別にここは、俺の家じゃないし」
 聞いてみるとこの時計塔は、国の管理で支援されている歴史的建造物で、修理はすぐに出来るという話だった。じゃあぼんさんはどうしてここにいるのかと聞いてみると、途端に暗い顔になってこう言った。
「俺が見えないからよ。見えない俺は邪魔なんだろうね。だから鐘鳴らしの仕事だけやらせてんの。みんな嫌がる仕事をね」
「そうなの……?」
 時計塔の鐘が一時間ごとに鳴っているのは僕が物心ついた時から聞いていた。だからその鐘を鳴らす仕事が、誰もが嫌がるとは思えなかったのだ。
「鐘の音って大事だと思ってた。だって学校に遅刻しないから」
「学生の頃はね、みんなそう言ってくれるのよ」
 そう言って横を向いたぼんさんは、少し寂しそうに見えた。サングラスをしているから、表情は分かりにくいけど、僕は寂しいんだなと思ったのだ。
「目が見えないのに、サングラス掛ける必要があるの?」
 これは好奇心だった。するとぼんさんはくすりと笑った。
「不思議だよね、サングラスを掛けると光と影が分かりやすいのよ。……アナタ、今俺の前で手振ってるでしょ」
「え、なんで分かるの?」
「光と影だけは見えるのよ」
 それがどういうことなのか、この時の僕はよく分からなかった。だけどぼんさんが他の人と変わらないように喋ったり顔を逸らしたりするから、本当に見えていないのか思わず目の前で手を振ってみたのだ。
「ぼんさん、また来ましたよ」
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