• テキストサイズ

時計塔と忘却の行方[dzl]

第33章 時計塔の頂上


「……時計塔は、ぼんさんに管理人を辞めて欲しくないのかも」
 僕がそう言うと、周りがざわざわした気がした。ぼんさんや三人だけでなく、足元に広がる草や風、空も騒ぎ出したような、そんな錯覚。
 ぼんさんは眉を吊り下げた。
「そんなこと言っても、時計塔の管理人だった記憶は全然ないんだけどなぁ……」
 ぼんさんは困っていたけれど、僕は時計塔の気持ちが分かる気がした。僕は、僕の知っているぼんさんに戻って欲しかった。目が見えなくてもいいから、あの時ピアノ演奏をして拍手をくれたぼんさんに……。
 その時ふと思い出した。そういえば、時計塔にあのピアノがない。よくある普通のグランドピアノだったが、僕とぼんさんにとっては大切な思い出だ。アレさえあれば、ぼんさんは僕のことを思い出すんだろうか。そしたら元の世界に帰りたくなくなるかな……。
 悪い気持ちが湧いてきて、僕は自分で嫌になってきた。僕はぼんさんに元の世界に戻って欲しいのかと聞かれたら、うんと即答は出来ないだろう。だけど、このままじゃ、きっとぼんさんはずっと笑ってない。
 僕は、自分のことより、ぼんさんのことを優先することにした。
/ 73ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp