第33章 時計塔の頂上
「……時計塔は、ぼんさんに管理人を辞めて欲しくないのかも」
僕がそう言うと、周りがざわざわした気がした。ぼんさんや三人だけでなく、足元に広がる草や風、空も騒ぎ出したような、そんな錯覚。
ぼんさんは眉を吊り下げた。
「そんなこと言っても、時計塔の管理人だった記憶は全然ないんだけどなぁ……」
ぼんさんは困っていたけれど、僕は時計塔の気持ちが分かる気がした。僕は、僕の知っているぼんさんに戻って欲しかった。目が見えなくてもいいから、あの時ピアノ演奏をして拍手をくれたぼんさんに……。
その時ふと思い出した。そういえば、時計塔にあのピアノがない。よくある普通のグランドピアノだったが、僕とぼんさんにとっては大切な思い出だ。アレさえあれば、ぼんさんは僕のことを思い出すんだろうか。そしたら元の世界に帰りたくなくなるかな……。
悪い気持ちが湧いてきて、僕は自分で嫌になってきた。僕はぼんさんに元の世界に戻って欲しいのかと聞かれたら、うんと即答は出来ないだろう。だけど、このままじゃ、きっとぼんさんはずっと笑ってない。
僕は、自分のことより、ぼんさんのことを優先することにした。