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時計塔と忘却の行方[dzl]

第29章 異世界


「そんなん信じられませんよ」と言ったのはおらふくんだった。「じゃあなんで今のぼんさんは若返ったんですか? 僕たち、本当は子どもじゃなかったってどういうことですか?」
「いや、俺もよく分かんないのよ……」
 おらふくんの鋭い言葉に、ぼんさんは心底困ったように声が先細っていた。まだ、何か思い出せていないことがあるのかも。僕は手の中の小麦の種をぎゅっと握り締めた。
「やめなさい、おらふくん」ぼんさんに詰め寄るおらふくんを止めたのは、おんりーだった。「俺たちが思い出せていないだけなのかも。今はここで言い合っても仕方ないから」
 おんりーがそう言って止める気持ちも分かる気がした。今そこにいる若いぼんさんは、僕たちのよく知っているおじぃさんではなかったけれど、全くの知らない人とは思えなかったのだ。目が見えなくて困っていたあのぼんさんと、同じ気がして。
「ぼんさん、これで何か思い出したりしないですか?」
 思い出したら、別れが近づくだろうと思ったけど。
 それより何より、今困っているぼんさんを助けたいと思った。
「それは……?」
 ぼんさんが、僕の広げた手にある一粒の小麦の種に顔を近づけた。
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