第19章 捌け口
演奏をし終えるとぼんさんだけが僕に拍手をくれて、ますます嬉しかった。ね、僕また演奏に来るよ。そしたら車掌みたいな嫌な人が来ても嫌な気持ちもすぐ忘れられるのかなって思って。
「う〜っす、時計のズレ直しに来たっす」
そのあと、工具箱を持ったMENがやって来て僕たちはまた時計塔を上がった。僕も手伝いたかったけど、また手を怪我したら親に怒られるからとぼんさんに止められた。
「アナタの手は、ピアノのために使いなさい」とぼんさんが言った。「それとも、ピアノは嫌いかな? ユメトくん」
「ううん」
むしろ、大好きなくらいだ。
すると、ぼんさんはにこりと笑った。
「それは良かった。俺は、ユメトくんのピアノ演奏好きだからね」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
「じゃあ毎日演奏するね!」
子どもの言う約束。ぼんさんは冗談だと思ったみたいだけど、僕は本気だった。
「はははっ、別に毎日じゃなくてもいいのよ」
「ぼんさん、休んだらダメっすよ」
僕の本気度がMENには伝わったのか、MENはそう言って時計のズレを直し終えた。
ぼんさんはまた笑って頷いて。
「そうね、風邪も引けないね」
と言っていたのを、僕は今でもずっと覚えてる。