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時計塔と忘却の行方[dzl]

第16章 小麦の種


「今日はね、ここをよく知らないユメトくんのためにあの部屋を紹介しようと思うよ」
 そう改まった口調で切り出したぼんさんは、三人に手助けしてもらいながらある部屋に案内してくれた。
 そこには壁や棚にいっぱいのコレクションが置いてあって、僕は見たことないものにすぐ心が躍った。
「これは何? ぼんさん」
「それは、雷を呼ぶトライデントだね」
 ぼんさんはトライデントという三又の槍を触りながら、懐かしむように冒険の話をしてくれた。その槍はクリーパーというモンスターを帯電させるために使ったものらしく、雷が降り続ける平原で、雨に濡れながら何度も挑戦したらしい。
「で、帯電クリーパーでクリーパーを爆破で倒した戦利品がこれ……えっと、どこだっけな」
「これですよ、ぼんさん」
 棚を手探りし始めたぼんさんに、おんりーはそう言って緑のぬいぐるみを渡した。
「モンスターがこんな可愛いものを落とすの?」
「そ、落とすのよ」
「へぇ〜……」
 僕はこの街から出たことがないから、モンスターがどんな見た目なのか分からなかったが、絵本とかの中では恐ろしい生き物として描かれているから、可愛いぬいぐるみを落とすとは想像がつかなかった。
「あ、ねぇねぇ、これは何?」
 僕は視線を逸らして棚に飾ってある別のものに興味を持った。一見、よくある何かの種に見えるが、こうして飾っているのだから何か特別なものかと思ったが。
「ああ、これね」とぼんさんは種を触りながらクスクスと笑った。「これは小麦の種よ」
「小麦の種?」
 それは、お店とかにあるよく見る種だった。わざわざここに飾るようなものではない。
 だけどぼんさんは懐かしむように、他のなんでもない小麦の種だと言っただけだった。ぼんさんにとっては、特別なものなんだろうなと僕は思った。
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