• テキストサイズ

時計塔と忘却の行方[dzl]

第15章 ルルン


 その後、僕は何事もなかったかのように家に帰って、どこに行っていたんだと聞かれたら「ピアノを弾いてた」と初めて嘘をついた。
 お父さんもお母さんも僕の嘘には気づかないで、ピアノコンクールのお話に流れて行った。今回は天才ピアニストが新しく来るんだそうだ。でも僕は、そんなことより時計塔で聞いたぼんさんのお話がずっと気になっていた。
 それは次の日、学校に行っても熱が冷めずにぼんさんのお話をずっと頭の中で繰り返していた。だから時々先生に呼ばれても気づかなかったけど、予習していたところだったから勉強はスムーズだった。
 学校が終わると僕は真っ先に時計塔に向かった。途中友達に、ピアノ教室はそっちじゃないぞと言われたけど、練習場所を変えたんだと言って僕は気づいたら走り出していた。
「こんにちは〜」
 と僕が時計塔にやって来た時にはいつもの机があるところにぼんさんがいて、その声はユメトくんだねと出迎えてくれて、他の三人が来るまで僕はピアノを弾くことにした。
「何か得意な曲はある?」
 ってぼんさんに聞かれたから、僕はバックから楽譜を開いて、昔から弾き続けている曲をやってみることにした。
「ルルンはどう?」
「ああ、なんの曲だっけ? 聞いたら思い出すかも」
「じゃあやってみるね!」
 そうして僕が駆けつけると、やはりあの場所にあるピアノは色とりどりのステンドグラスに照らされてカラフルな光に包まれていた。そこだけまるで別の空間のような、それこそ神聖な場所とはこういうことなんだろうと思わせるような雰囲気で、これを目の見えないぼんさんにどう伝えたらいいのか分からないのが悔しいくらいだ。
 僕はピアノの屋根を上げて、鍵盤の蓋を開けた。新品かのように綺麗だった。手入れはずっとしていたんだと思う。ピアノがそう教えてくれている気がした。
 試しに何音か鳴らしてみたが、問題はなさそうだ。
 譜面台に楽譜を置いて椅子に座る。ステンドグラスに照らされた鍵盤がカラフルに輝いているみたいに見えて僕は一瞬手が止まった。僕はもう一度楽譜を見直して、指先を鍵盤に置いた。
/ 73ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp