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時計塔と忘却の行方[dzl]

第13章 ピアノ


 そうして僕が案内されたのはすぐそこだった。広間の奥の色とりどりなステンドグラスがある窓際は少しだけ高くなっているステージみたいになっていて、そこには布を被せられた大きな荷物があった。
「これは何?」
 僕はたまらず聞いてみたが、ちょっと待ってねと言うだけでぼんさんはまだ答えない。それからぼんさんは荷物に掛かった布を引っ張ろうとしたから僕も手伝うと、そばではおらふくんが、荷物の奥に回り込んでおんりーとMENも手伝ってくれて、そこにあった荷物がなんなのかが分かってきた。
「これって……」
「ピアノ、そこにある?」
「うん」
 僕が見えていたものをそのまま伝えると、ぼんさんは良かったと安心したように笑った。
「俺、最初ここに来た時そのピアノの上から落ちてきたのよ」とぼんさんは言う。「大きな音が鳴ったから気づいた。あ、今ピアノの音がしたなって。そして、俺は見えなくなってることに気づいた」
「ぼんさん、昔は見えてたの?」
「見えていたと思うんだけどね、覚えてないんだよ」
 その言い方は変だと思った。でもぼんさんくらい長生きしたら、忘れちゃうものもあるのかな、と僕は納得することにした。僕だって時々宿題は忘れちゃうし、そんなものだと思って。
「ピアノは壊れてない? 俺が落ちてきたところだからもしかしたら壊れてるかも」
 とぼんさんが聞くので、僕はピアノをよく観察してみた。
 よくある真っ黒なグランドピアノだった。なんでこんなところにと聞いてみると、昔時計塔は祭りごとを行う中心地で、有名なピアニストが盛り上げるために弾いていたんだろうだ。
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