第9章 傷当て
「痛かったでしょ。俺の代わりにありがとね」
「え」
「手、間違ってハンマーで打ったんじゃない?」
「どうして分かるの?」
「さっき痛いって言ってたじゃない」
そんなに大きな声だったかなぁと思いながら、ぼんさんに手を出してと言われて僕は素直に従った。もう痛くはなかったけど、少し赤くなっている僕の手がそこにあった。
「こうするといいってある人から聞いてね、ちょっとは楽になるといいね」
とぼんさんは手探りで僕の手に傷当てを巻いてくれた。あまりにも丁寧に巻くから、本当は見えているんじゃないかと疑ったくらいだ。
「本当に見えないの? ぼんさん」
「ほんとほんと、見えてないよ」
「いつから見えないの?」
「うーん、いつだったかなぁ……」
その時、頭上でゴーンと大きな音が鳴った。ずっと街のどこか遠くから聞いていた時計塔の音も、こんな間近で聞くのは初めてで、僕の全身で鐘の音を聞いたみたいだった。
「そろそろ夕方だね。みんなお家に帰りなさい」
ぼんさんは僕たちにそう声を掛けた。僕の手にはすっかり傷当てが巻かれていた。