第1章 ゲームの世界に転生を
「私の顔は、見るに値しないものでしょうか?」
えっ?彼の顔?
「そんな訳はっ!!」
「やっと、私を見てくれましたね。」
微笑みが素敵。機嫌を損なわせていたのかと心配になったけれど、どうやらそうでもないらしい。
「ごめんなさい。その・・・あまり、人付き合いが上手ではなくて。」
「そうでしたか。嫌われていない様で安心しました。これからは毎日、顔を合わせる事になりますから良かったです。」
「毎日?」
「えぇ、毎日です。父上も明日から登城する予定になっていますから、日中は家人以外では私と貴女だけになります。仲良くしてくれると嬉しいです。」
この穏やかさが好きです。前世の周りにはせっかちで、威圧的な人が大勢いたから彼みたいな人がとても・・・。
「あの・・・私などがお世話になるのはご迷惑ではないですか?どこの馬の骨とも分からない私などが・・・。」
「そうですねぇ・・・転生者の一部として、そう良い方ではなかったという史実もありますから。ですが、父上の人の見る目は確かだと思っていますし、私も父上の意見には賛同していますよ。ですから、ここを貴女の家だと思い安心して過ごしてください。それに、ウチは女っけがありません。貴女の様な可憐な方がいてくれた方が、華やかになるというものです。」
そう言えば、彼の母親は流行り病で彼が十歳の時に亡くなったんだっけ。彼はこの伯爵家の一粒種。それに、こんな素敵な男性だ。
「あの・・・婚約者様とか、私を不愉快に思ったりされませんか?」
「私に婚約者はおりませんから、そういう気遣いも不要です。」
「そう・・・なのですか?」
今の彼は何歳なのだろう?確か、ゲームでは婚約者がいたというか出来たというか。今は未だ、婚約者が出来る前なのだろうか?
目の前に座っていた彼が立ち上がり、私の隣りに腰を下ろした。距離が近い。
「貴女のこの黒髪は、とても美しいですね。」
髪は私の数少ない自慢だ。褒められて嬉しくない訳がない。
「ありがとうございます。」
「不躾なお願いなのですが、少し触れてもいいでしょうか?」
「は、はい。」
そっと触れられた意外にもゴツゴツしたその手に、私は心臓が爆発しそうだ。
「真っすぐでしなやかで・・・いつまででも触れていたくなりますね。」
一束掴んだ髪を彼は口元に寄せ、キスした。ブワッと、顔に朱が集まる。