第1章 ゲームの世界に転生を
意識のない私を拾ってお世話してくれたのは、ある伯爵家のご当主様でした。どうやら、領地から王都にあるお屋敷へと向かっている途中だったらしいです。
私の黒髪を見て、たまに別世界から現れる転生者なのだと思った様です。不憫に思い救いの手を差し伸べてくれた方の名は、ルキウス=ステイサム様。
聞いたことのある名前だなと思っていたら、王都のお屋敷に息子が住んでいるからと紹介してくれる事になりました。私のこれからをどうしようか、途方に暮れていたのですが読み書き計算が出来るということでルキウス様のお手伝いをすることになりました。
良かったです、読み書きが出来る私で。どうやら、お屋敷に到着した様です。馬車が停止し、扉が開かれました。ルキウス様はお優しくてとても紳士です。先に馬車を降りたのですが、私をエスコートしてくれました。
「お帰りさない、父上。お元気そうで何よりです。」
「ルクター、久しいな。スミレ、これが私の息子のルクターだ。」
ルクター?私の推しと同じ・・・いや、当人だったっ!!どう挨拶したか覚えていない私に、彼は優しくゲームで見た微笑みを浮かべ挨拶と共に手の甲にキスしてくれました。
ヤバい・・・本当に素敵。素敵過ぎて、目が合わせられない。さっきから、彼の膝しか見ていない。
「ルクター、スミレに屋敷内を案内してやってくれ。」
「承知いたしました。」
えっ?推しの案内?
「では、行きましょうか。移動でお疲れでしょうから、無理しないで何でも私に言ってくださいね?」
彼が優しい。空気に溶けそうな返事しか出来なかった私を、彼は咎めることなくエスコートしてくれた。
でも・・・全然、覚えられる気がしない。到着した時に思っていたけれど、伯爵家は大層お金持ちらしい。お屋敷が広い。金持ち喧嘩せずの典型的な人なのか、穏やかででも出来る人なのだろうなと思う。
「疲れましたか?お茶を用意させましょう。」
裏庭にはガゼボがあって、そこで綺麗なお庭を鑑賞しながら休息を取ることになった。彼はどうやら同伴してくれるらしい。緊張が解けない。それに、ずっと目線が上げられない。
人付き合いは前世から得意な方じゃなかった。でも、こんなに緊張しているのは初めてなのかもしれない。