第10章 マウント
突然笑い出したのは、ずっと黙っていた最後の一人。鞄から一通の封書を取り出しては、元カレに握らせた。
「な、何だよコレ?」
「請求書。」
「は?請求書?何のだよ。」
「お前が俺の元嫁と浮気した慰謝料のだよ。」
誰もが息を呑んだ。
「良かったな?俺のお古だけど、アイツはお前と結婚するつもりだぞ。それと、お前の上司からの紹介を破談にしたのは俺だ。浮気の証拠を見せたら、激怒してたぞ?これで、今まで息巻いてた昇進の話しも無しだろうな。今までのツケだ。大人しく払え。お前に勝ち目はねぇよ。それと、今日でお前との付き合いも最後だ。縁を切る。じゃあな。お前たちはどうする?」
「俺も縁を切る。」
「俺もだ。これでも、彼女と近々結婚しようと考えてたんだ。これ以上、横槍入れられたくない。じゃあな。」
去って行く元カレの友人たち。
そっか・・・既婚者との浮気。
呆然としている元カレをそのままにしては、彼に手を引かれ歩き出した。
「昔の私って・・・本当に見る目ない。」
「良かった。昔の私で。」
「侑佑くんは、美男子なのに一人にだけ純粋だもの。」
「僕の執着を純粋だって言ってくれるのは、留美子さんくらいだよ。」
「ただの執着だけだったら、私は付き合いを続けてないよ。断言出来る。」
私の言葉に、彼の目が見開かれた。
「えっ?あ、ゆ、侑佑くん?えっ?ど、どうしたのっ!!?」
慌てる私は間違っていないと思う。だって、彼の綺麗な目から、一筋の涙が零れたから。そして、ギャラリーの私への視線が厳しい。何を地味女が、美男子を泣かせているんだって目で訴えられている。
「ごめん・・・僕の執着を、そんな風に言ってくれたのは留美子さんだけだったから。・・・ありがとう、留美子さん。大好きだよ。僕の人生全部を捧げて幸せにするから。だから・・・僕を捨てないでね?」
「す、捨てないからっ!!」
「うん。僕は・・・留美子さんを失ったら、生きていたくないから。留美子さんの為なら何だってするから、僕を傍に置いてね?死ぬまでずっと。たぶん・・・死んでも傍にいると思うけど。」
最後の最後で、彼らしいセリフだ。
泣き笑う彼の手を引っ張って、私は急ぎ足で家へと帰った。
「はぁっ・・・美男子は、泣いても美男子だな。」
「僕の泣き顔好き?」
「好き・・・じゃない。」
「えっ?」
