第10章 マウント
「何言ってんの。そういう美月の方こそ、旦那さんから結婚してくれないと死ぬって言われてたわよね?」
「あ~、そういう事もあったわね。」
「旦那さんは?」
「神社に甘酒を届けに行ってる。」
「そう。今でも仲がいいって、お母さんから聞いてるわよ。」
「まぁね。でも、今でも思うんだよね。目立たない私みたいな何処が良かったのかって。ホラ、ウチの旦那って割とイケメンだったでしょ?」
「そうね。クラスでも陽キャのグループだったし。でも、私は気付いてたわよ?チラチラ、美月のこと目で追ってたもの。」
「そうなの?まぁ、最初は色々あったけど、旦那が蹴散らしてくれたし。」
「稲本さんの旦那さんの気持ち、僕も分かります。」
急に割って入って来た会話。
「えっ?分かるって?」
「僕も、留美子さんが結婚してくれないなら死んでもいいですから。」
「な、何言って・・・。」
「前にも言いましたよね?」
「アハハ。留美子、美男子に溺愛されてる。でもね・・・そうだったからこそ、一緒にいられたんだと思う。部外者には、良い顔しないから信じられた。高倉さん、留美子をお願いします。ホントにいい子なんで。」
「はい。僕の人生を掛けて、留美子さんを幸せにします。」
つい、美月と私二人揃って涙ぐむ。そして、温かい甘酒を飲んでその場を後にした。私の手をしっかり握り締めては、隣りを歩く彼。見上げる程高い身長だけど、いつだって私の視線に気付いてくれて微笑んでくれる。
幸せだ・・・そう、思っていた時、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「留美子?」
その相手は、高校生の時に私を捨てて恵美子と付き合った元カレだった。周りには、見知った顔ぶれが幾つかある。私に声を掛けようとしたものの、彼の存在に気付き躊躇している様子。
当時、恵美子がイケメンだと言って私から奪い取った相手だ。元カレもイケメンだと担がれて、満更でもなかったのだろう。私たちが通り過ぎようとしたが、再び、声を掛けて来た。
「留美子っ!!」
私は足を止め、顔だけ元カレに向けた。
「何?」
「何とかしてくれよ。」
「何が?」