第8章 社員旅行
容赦ないのに、良い笑顔だな。
「それにさ・・・秘書と言う前に、僕と僕の婚約者の間に割って入るのって人としてどうなの?凄く不愉快だよ。」
これも、笑顔だよ。経理課のメンバーくらいしか聞こえていないから、他から見れば他愛もない会話をしていると思われるだろうな。本当に容赦ないけど・・・。
秘書は泣きそうな顔をして、広間から出て行った。ビール瓶をその場に残して・・・。
私はと言うと、彼から紹介されて役員の人達とご挨拶。充実した時間を過ごす事が出来た。
宴会が終わり、部屋では二人で露天風呂を満喫した。
その翌日。
私と彼は広間で目をパチクリとしてた。と言うのも・・・あの甘えた声で、営業部の社員と懇意にしていたから。後で相良から聞いた話しでは、どうやら泣いていた江藤を慰めた事で二人の仲が深まったらしい。
何か、学生時代の修学旅行を彷彿させる出来事だな。ま、どうでもいいけど・・。
「?侑佑くん、どうかしたの?」
「うん?あぁ、あの営業の人・・・いいのかなって。」
「どういう事?」
「どうって・・・先日、営業部の部長に仲人のお願いをしていたのを見掛けたんだけど。」
「えっ、じゃあ、婚約者がいるってこと?」
「うん。相手はウチの人間じゃないけど。」
部外者の私たちが立ち入っていい事じゃないから放置することにしたんだけど・・・どうやら、同じ営業部のメンバーたちが彼らに声を掛けていた。
流石、営業マン。声が大きい。なので、周りにもその会話の内容が筒抜けだ。
「アレ?いつもなら朝ギリギリなのに、今日は早いんだな。って・・・何で、秘書課の子と同伴なんだ?」
「お前、再来月には結婚するんだろ?相手がウチの人間じゃないけど、こういうのはどうなの?」
「昨晩も、部屋に戻って来るの遅かったけどまさか・・・。」
疑惑は疑惑だけで終わらないらしい。次々と営業分のメンバーから、情報が発せられて来るのだけど・・・。
「誤解だ、誤解。昨日は、江藤さんが泣いていた様だから、ちょっと慰めていただけだ。今朝は、たまたま朝早く目が覚めただけだし。って、何だよ。その目は。」
「嫌、別に俺らはいいけど・・・でも、今のお前たちを見た婚約者がここにいたとしたら、どう思うんだろうなって思っただけ。」