第8章 社員旅行
「なぁ、お前は逆の立場だったら、裏切られたとか思わないのか?婚約者が他の男と肩を寄せ合っているのを見ることになったら。」
「そ、それは・・・。」
「お前・・・そういう隙があるから、気を付けた方がいい。人の縁なんて、お前が思った以上に簡単に切れるもんだからな。」
周りからの苦言に、営業マンはその場を立ち上がった。
「昨日のお礼とかもういいんで。失礼します。」
甲斐甲斐しくお世話していたらしい江藤に、他の営業部のメンバーと去って行く。
あ、一人が立ち止まった。
「あれだけ専務に言い寄っていたのに、随分、キミは気が多いみたいだけどウチのヤツを誘惑しないでやって。キミだって、疑惑だけで慰謝料を払う事になんてなりたくないだろ?」
どうやら、営業部の先輩らしいその人はそう言っては去って行った。
「あの人、既婚者なんだね。」
「愛妻家だって有名だよ。」
「そう・・・。」
江藤は食べ終わる前に席を立ち、食堂から出て行った。周りからの目に耐えられなかったのだろう。牽制も込めて、あのボリュームで話をしていたのもあるのだろうな。
それにしても、営業部の人でさえ把握されている彼への執着。そんなに関わっていたのか。
「僕の事なら心配ないよ。」
「そういう心配はしてないけど。」
「それならいいけど。」
あんな容赦ない言葉を吐ける人が、私がいない時だけ仲良くするとは思えない。
「ただ・・・優しさを上手く使わないと、後で後悔しそうだなぁ。人の口に戸は立てられないから。」
「ああいう周りの人たちがいてくれる限り、大丈夫だよ。」
「そうだね。ただ、営業部で花婿探しはもう無理だろうな。」
確かに・・・。
帰りのバスの中は、相変わらず彼とたまに社長たちと会話をしつつ帰路に着く事になった。江藤はその間、昨日とは違って大人しかった。