第8章 社員旅行
「うん、僕は留美子さんの傍にいたいし。」
「それならいいんだけど。」
「あ、その・・・ごめんね?兄さんが同乗だって言い出したからこんな事になって。居心地悪いよね?目障りなのもいるし。」
「目障り?」
「用もないのに、よく専務室に来るんだよね。何かと理由を付けて。そろそろ入室拒否しようかと思ってる。」
「えっ、でも、大丈夫なの?」
「うん。僕は僕の管理を僕自身が出来るから。どちらかと言うと、他人に任せたくない。」
「それは人それぞれだから、侑佑くんの自由にしていいと思うけど・・・。」
「留美子さんならそう言ってくれると思ったよ。でもさ・・・そうじゃなくて、自分を売り込むのに必死なヤツもいるんだよね。僕には要らないのに。」
そうか、売り込むのに必死なのか。
「兄さんに言ったら、直ぐに対応してくれるだろうけれどさ・・・圭太さんより迅速で厳しい対応になるから、圭太さんに進言することにするよ。」
社長・・・彼のこと大好きだものね。
「それに、僕から留美子さんを引き離そうとしたの許せない。留美子さんと結婚するまでは、それなりに会社に来るつもりだけど、結婚したら出来る限り家で仕事するつもりだから。その為に、一人知り合いを引き抜いて来たから。」
「どんな人?」
「大学時代の同級生。数少ない懇意にしている友人の一人だよ。」
自分で数少ないって言ったよ。
「留美子さん?」
「ん?」
不意に見上げれば、咄嗟にキスされた。
「ゆ、侑佑くん!!?」
「大丈夫、アイツしか見てないから。」
「えっ?アイツ?」
「フフ、あんな怖い顔もするんだなぁ。」
怖くて、窓の外に目を向けられない。
「ワザと?」
「うんっ!!」
そんないい笑顔で言われたら、怒るに怒れないじゃない。
「昨晩はごめんね?留美子さん、あまり寝かせてあげられなくて。」
「そんな申し訳なさそうな顔をするなら、あの時に止めておけば良かったのに。」
「う~ん・・・ごめんね?でも、どうしても留美子さんと愛し合いたかったから。」
これは、全然反省していない顔だ。
きっと、彼の頭の上にはハートマークが飛び回っているだろうな。
「しょうがないわね。」
「ふふ、そうやって言ってくれるから、留美子さん大好きだよ。」
あ、どうやら誰かがバスに戻って来た様だ。目は・・・合わせない。怖いから。
