第7章 彼の元カノ
「私の大事な弟が、世話になった様だね。」
いつもの朗らかな社長じゃない。顔が笑顔だけど怖い。
「目障りだからさ、ウチの近辺で働けると思うなよ?」
あ、元カノ逃げてった。流石、社長相手には何も言えなかったみたいだ。
「圭太、後は頼んだよ。」
「承知致しました。」
何を承知したのだろう?
「兄さん・・・あの人、一時的にでも入社させたのワザとでしょ。」
「だって、許せなかったんだよ~。私の侑佑を傷つけたんだから。」
「僕は兄さんのものじゃないよ。留美子さんのものだから。」
「家族じゃないか~。そんな冷たいこと言うなよ~。」
「まぁ、いいけど。でも、後は頼んだよ?」
「勿論だっ!!兄さんに任せなさい。じゃあ、またね。お二人さん。」
彼が頼んだと言ったことが、どうやら社長は嬉しかったらしい。笑顔で帰って行った。
「侑佑くん・・・実を言うと、私も少し不愉快だった。目の前で、呼び捨てしているのを見るのは。」
「だったら、留美子さんも呼び捨てにしてくれていいよ。」
「ううん。私は今のままでいい。」
「そう?留美子さんがそう言うなら。」
「侑佑くんは?」
「僕?僕も今のままでもいいかな。でも、結婚したら呼び捨てにしていい?」
「うん。」
「フフ、楽しみ。さ、僕たちも帰ろうか。」
マンションに戻り、二人で夕食を作り二人で食べて二人で入浴して二人で微睡む。
そんな時、彼のスマホが鳴り響いた。
「・・・はい。・・・あぁ、うん。・・・そうだよ。それ本気で言ってる?・・・だよね、うん。じゃあね。」
相手は、たまに電話で話している学生からの友人の一人の声だった。
「謝罪したいから仲を取り持てだって。笑えるよね。僕に謝罪なんかしても意味なんてないのに。まぁ、留美子さんに謝罪しても許さないけど。」
「共通の知り合いなの?」
「うん。事実を説明しておいたから、直ぐに噂は広がると思うよ。」
「・・・でも、綺麗な人だったよね。」
「留美子さん・・・。」
「ご、ごめん・・・変なこと言ったよね。」
「そんな事ないよ。妬いてくれたんだよね?凄く凄く嬉しいよ。でも、僕は留美子さんしか要らないから。大好きだよ。愛してる。」
彼にスリスリされて、心から私の小さなヤキモチがとても嬉しいらしい。