第1章 年下美男子に拾われました
「元カレ?」
「うん。でも、折半だった。」
「そう。じゃあ、問題ないね。」
「問題?」
「そう。だって、今後住まないアパートの家賃を払う必要なんてないと思わない?」
確かに、それはそうだ。そして、ここの家賃は確かに安価じゃない。だからこそ、あんな裏切りをした相手に施してやる必要なんてない。
「あらっ、留美子ちゃん?」
「あ、皆川さん。こんにちは。」
「こんにちは。こんなところでどうかしたの?」
「丁度良かったです、お会い出来て。少しお時間宜しいでしょうか?」
「ええ、構わないわよ。」
私は、美男子にこの人がこのアパートの管理人だということを話した。そして、管理人である皆川さんに引っ越すことを話した。名義は元カレ・・・もう元カレでいいや。終わったんだ、こんなことをやった相手を思いやる必要なんてない。
「それは寂しいわね。それで、引っ越し先は決まっているの?」
咄嗟に告げた言葉なだけに、引っ越し先なんて白紙のままだ。でも、何でもないように美男子がこう言った。
「僕のところで住むんですよ。」
「そうなの?でも、随分イケメンねぇ。あ、でも・・・高志くんとはお別れしたってことなのかしら。」
「はい。」
「そう・・・今はこんなイケメン彼氏がいるのなら、問題ないかしら。」
「問題?」
「えぇ、その・・・言いにくいのだけど、高志くんが留美子ちゃんのいない時に部屋に若い女の子を招いていたのを何度か見掛けた事があったの。」
しっかり見られていたのか。このアパートは、管理人さんと距離感が近い。なので、他の住人さんとも仲がいい。
「いつ頃からですか?」
「そうねぇ、確か・・・半年前くらいかしら。」
「そうですか。」
「でも、本当にイケメンねぇ・・・。」
六十歳越えの皆川さんを虜にする美男子、恐るべし。そして、やたらとイケメンと言われてただニコニコしているだけの美男子。普段から言われ慣れているのだろう。
名義変更もしないので、私は本当の意味で身一つで放り出される事となった。本当に私を舐め過ぎていると思う。このままタダで泣き寝入りだなんて思うなよ。そんな事を思いつつも、何もかも失う羽目となった私は気持ちが滅入る。
「それじゃ、一先ず遣ることはやったし行こうか。」
それはそれは眩しい程の笑顔を浮かべる美男子がいた。
