第3章 社長と彼
社長の辞令は迅速だった。と言うのも、翌朝には掲示板に貼付されていたのだから。あれだけ周りからチヤホヤされていた後輩だったけれど、周りは遠巻きに見ているだけ。
私を見つけた後輩は、恐ろしい形相で近付いて来た。今にも掴みかからんばかりの態度だったけれど、間に入ってくれたのは彼ではなく社長専属の秘書だった。
この人も、切れ者で有名人だ。そして、どうやら社長たちとは従兄弟同士らしい。
「卑怯者っ!!私をこんな風に甚振ってどういうつもり!!ブスはブスらしく、大人しく引っ込んでろよ。」
「おや・・・それが、キミの本性ですか?」
頭に血が上って、我を忘れていたらしい。社長秘書に言われて、黙り込んだ。
「不徳を摘んだ貴女に、社長は慈悲を与えたと言うのに残念ですね。社の風紀を乱す者は、ウチには必要ありません。どうします?南野さんに今の暴言を謝罪し頭を下げると言うのなら、今回だけは不問に致しますが?」
「私が謝罪?このブスに?そんなの嫌よ。いいわ、こんなとここっちから辞めてやる。私なら何処へ行っても引き取数多だもの。それに高志さんが私に付いているんだもの。」
「あぁ、S商事の大山さんのことですか?彼なら、今頃貴女と同じく左遷されていると思いますよ?」
「えっ・・・左遷?う、嘘よ!!」
「ご本人に聞けば直ぐに分かるでしょう。では、もうウチの社員ではないのですから、その身分証をお返し下さい。そして、迅速に会社から出て行ってくださいね。それと、同系の会社では貴女たちの事は知れ渡っていますから、他の分野で頑張ってください。」
後輩は身分証は床に叩きつけては、会社から出て行った。
「おやおや、本当にしょうがない人ですね。手っ取り早く辞めて頂けて良かった。」
身分証を拾い上げ、部屋から出て行った。
私も澄子先輩も暫く呆然としていた。
「ねぇ、留美子・・・あの子、人生ツんでない ?」
「そ、そうかもしれないですね。」
「ウチの旦那が言っていたけど、あの社長秘書も一癖ある人だって言っていたけど・・・怖いわね。」
「えぇ・・・。」
多分、追及してあわよくばだったのかもしれない。社員証を拾って、どことなく一仕事終わった感を出して行ってしまったから。
「あの・・・S商事の方も?」
「あぁ、さっき、旦那から連絡あったけど、あっちは直接本人から直談判があったそうよ?」
