第1章 🌱𓂃 𓈒
「被検体になってくれるボランティアポケモンたちも戦闘はしないからキズ薬の必要がなくて…
安全性は保証できてるんだけど実施テストのデータが取れないの。」
「でも、前回のPPエイドもユウリの改良のおかげで副作用が消えたって聞いたし、
今回も頑張ってほしいよ?私としては」
そうだね。と微笑む彼女はわかっているのか居ないのか、紅茶の入った紙カップを静かに口につける。
「キズ薬が必要な戦闘を頻繁にするトレーナーねぇ…」
顎に手を当てて考えるソニアは突然、閃いた!と手を叩く。
「あ、あいつなんてどう?」
「え?」
「ほら、この間話したじゃない! ガラル地方のチャンピオンだよ!」
ああ…とユウリは思い出したように相槌をうった。
確かに以前、テレビで彼の姿を見たとき、ソニアが幼馴染だと言っていたはずだ。
「ダンデ選手のこと?」
「そう!彼ならきっと引き受けてくれると思うわ!」
自信満々の笑顔を浮かべるソニアに、
ユウリは苦笑い気味に首を横に振った。
「無理だよ、私同い年くらいの男の子と話すの苦手なの知ってるでしょう?
それに…チャンピオンなんて、話聞いて貰えないよ…」
「もう、そんなこと言わずにさぁ!」
ソニアはぐっと拳を握ってユウリを見つめた。
「大丈夫だって! 私が連絡しておくから!」
半ば強引にソニアに押し切られる形で ダンデと会う約束が決まり…ユウリは当日、
緊張した面持ちで待ち合わせ場所のバトルタワー前に佇んでいた。
ソニアは「困っていたら助けてくれるタイプ!」と言っていたけれど、自分のような見ず知らずの女が簡単にあっていい存在だとも思えない。
ダンデは不敗のチャンピオンとして子供から老人にまで人気のポケモントレーナーだ。
ルックス、性格、実力どれをとっても彼を嫌う人などいない…。
(せめて失礼のないようにだけしよう…)
ユウリがそう意気込んでいると、エレベーターの開閉音がポン、と軽い音を立てる。