第1章 🌱𓂃 𓈒
「俺の恋人になってくれないか?」
「……はい……?」
目の前の男はなんの迷いも、躊躇いもなくこう言った。
「君に決めたんだ」と。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼••
彼女の髪色は、この地方では珍しく。
すれ違う人は振り返っては、その束ねられた艶やかな黒髪に目を奪われた。
ガラル地方…ブラッシータウン。
自然豊かな縦長の小さな島。
レンガ造りの小さな建物が川沿いに立ち並び、どこかから焼きたてのスコーンと紅茶の香り漂うこの街で、彼女は別の地方からの来訪者に見えるだろう。
「スコーン3つ、あとラズベリージャムを1つお願いします。」
「はいよ、おや黒髪なんてめずらしいねぇ
アンタもしかしてカントー地方の人間かい?」
人懐こく話しかけてくる小太りな亭主が、焼きたてのスコーンを紙袋に詰めながら娘に話しかけた。
「はい、出身はカントーです」
「いやぁ、カントーなんて遠くから珍しい。旅行で?」
暖かい紙袋を受け取りながら彼女は微笑んだ。
「いえ、ここに住んで5年目なの」
「あ!いたいた、ユウリ〜!」
ユウリと呼ばれた娘は、声の方に目を向ける。
「あ、ソニアどうかした?」
ソニアと呼ばれるオレンジ色の髪の娘は息を切らせて、ユウリの目の前で立ち止まると「探したんだよ?」と呼吸を整える。
「研究所に行ったのに、ユウリ居ないんだもん」
「ちょっとアフタヌーンティー用のお菓子を買いに出ていたの」
ユウリは美味しそうでしょ?とスコーンをソニアに見せ、のほほんと笑った。
「ユウリはのんびりさんなんだから。
次の論文提出は再来月なんだよ?間に合うの?」
快活そうな顔のソニアは呆れながらも彼女から受け取ったスコーンを一口大にちぎって口の中に運ぶ。
「うーん…ギリギリかも」
ユウリとソニアは大学時代に知り合い、
研究所は異なるものの、同じ研究員として卒業後も友好関係が続いている。
人付き合いの苦手なユウリにとって数少ない友達だ。
「今回もキズ薬の研究だっけ?」
「うん、でも私…ポケモントレーナーの知り合いがいないでしょ?
だからなかなか研究結果が出せなくて…」
「そっか…」とソニアは心配そうに眉を落とす。