第1章 不思議な靄
紡side
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「……むぎ……」
誰かに声を掛けられている。
聞き覚えのある声。
でも思い出せない。
「むぎ……おかえり。」
「誰?僕のこと知ってるの?」
「……そっか久々に会うしお互い大きくなったからわからんか。」
目の前に現れたのは僕と同じ背丈の子。
年齢も同じくらいかな。
睫毛は長く、白い肌、綺麗な顔立ちをしている。
でも確かにどこかで会ったことがある気がする。
思い出せない。
「あんたにお願いがある。僕のこと見つけて。じゃないとアイツ……」
「アイツって誰?」
僕のことを「むぎ」と呼ぶその子は悲しそうな顔をして微笑んだ。
「頼んだよ。むぎ。ずっと待っとる。」
僕の前から少しずつ姿が薄れて消えていく。
待って……まだ何も分からない。
見つけるって何?
君は誰?
せめて名前だけでも教えて。
消えていくその子に手を伸ばす。
ギリギリ届かない……あと数ミリなのに。
中指がその子の流す涙に触れる。
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「待って!」
その瞬間に目が覚める。
ただの夢?
目を擦ろうと手を目元に運ぶ。
「っ!水?」
中指に水滴が付いている。
僅かに暖かい。
……夢じゃない……
さっきの子は本当にいたんだ。
でも探すって……
すっかり暗くなった空を見る。
かなり深く眠っていたようだ。
……明日にでも稑くんに何か知っていないか聞いてみよう。