第2章 逃げ出した婚約者
俺の横を素通りしては、エイリンの家の玄関ドアに空き物件の看板を掲げた。俺はそれを見て、慌ててその従業員に事情を聞いた。
「イリル団長に言われまして。」
「イリル団長が何故?」
「さぁ?私は上司に指示されただけなので、詳しい話しまでは聞いていません。では、俺は次の仕事がありますので。」
足早に去って行く従業員を見送り、俺は騎士団に向かう事にした。イリル団長に聞けば、事情が分かる。まさか、エイリンが可愛いからイリル団長がエイリンを囲ったとか?
逸る気持ちを抑えながら、駆け込んだ騎士団詰め所。いつもの喧噪な雰囲気。その中で見知った団員の一人に声を掛け、団長に取り次いでもらう様に頼んだ。
返事は直ぐに来て、イリル団長と会う事が出来た。出来たのだけど、いつもと違い何やら空気が重い。
「要件があると聞いたが、手短に言ってくれ。」
いつもなら、こんな冷たい言い方をしない。故に、俺はさっき考えた事が真実なのではと思い至った。
「エイリンを返して下さい。エイリンは俺の婚約者です。」
「婚約は破棄したと本人から聞いたが?」
「そ、それはちょっと喧嘩をしただけで、話し合えばきっと俺の元に戻って来ます。」
「婚約者がいる身分で、他の女性を囲おうとする男の元に戻って来るとは考えにくが?」
俺は頭に血が上り、思わず叫んでいた。
「囲おうとしているのは、貴方の方ではないのですか!!イリル団長は、いつもエイリンに優しかった。本当はずっと前から狙っていたのではないのですか?娘くらい歳が離れているのに、気持ち悪いんですよ。」
気が付いたら、目の前に団長が立っていて俺を見下ろしていた。威圧を諸に受けて、俺は腰が抜けた。
「俺を侮辱するのは、年長者だから不問にしてやる。だが、お前は破棄したとはいえ、エイリンまで乏すとはどういう了見だ!!」
鼓膜が震える程怒鳴られた俺は、打ち震えながら団長を見上げた。
「仮にだとして、エイリンは妾と言われ請け負う様な女だと思っていたのか。」
「ち、違うっ・・・。」
「そう言っているのと同じ事だ。大体、俺は最初からエイリンの相手にお前は相応しくないと思っていた。人助けだから、やって当たり前?そう思うのなら、先ずはお前がお前だけの力でやれって言うんだ。お前の態度は偽善でしかない!!」
人の気配を感じドアの外を見れば、誰もが俺に冷たい目を向けていた。