第2章 逃げ出した婚約者
今、俺の掌に婚約者に贈った指輪が乗せられている。ハッキリ言って、一方的に婚約を破棄し指輪を突き返したエイリンの考えている事が分からない。
いつも俺が頼めば、何でも聞いてくれた。なのに、どうして今回はこんな事になったのだろう?困っている人がいれば、助けるのは当たり前だと思うのだけど。
エイリンは騎士団の詰め所に薬を配達すれば戻って来る。ここで待っていれば、エイリンと話し合いさえすれば俺のお願いは聞いてくれるだろう。
そんな事を思っていると、女性が苛立ちを隠そうともせずに俺に要望してきた。
「ねぇ、私は疲れてるって言ったわよね?何処かに休める宿でも取ってくれないかしら。」
「そ、そうだったね。分かったよ。」
俺はエイリンの家で待ちたかったが、女性に請われて近所に宿を取り一緒に食事をすることになった。女性は出された食事を見て眉を顰め、手を出したものの直ぐに食べるのを止めた。
「こんなもの、私の口には合わないわ。もっと、いいものを用意して。」
「ごめん。じゃあ、食事はレストランに案内するよ。」
「最初からそうすればいいのよ。」
宿屋の他の客が、嫌そうにこっちを見ている。その内の一人が宿屋の主人に告げ口した事で、俺たちは宿屋から追い出される羽目となってしまった。
女性は最初からこの宿屋を不満に思っていた様で、次はもっとグレートのいい宿屋にしてと言って来た。仕方なく、お得意様に斡旋する一番いい宿屋を取ることにした。
その宿屋でも、女性は「まぁまぁね」と言って、食事も文句を言いながらもお腹が減っていたらしく完食していた。俺はその後、女性を宿に残しエイリンの家へと向かった。
「良かった、まだ戻ってきてない。」
エイリンはきっと、虫の居所が悪かっただけだ。俺のお願いを聞いてくれなかったことは無かったのだから、今回もちゃんとお願いすれば必ず聞いてくれるはずだ。
そう信じて待つ俺だったけれど、エイリンがこの家に戻って来ることは無かった。夜も更け仕方なく家に戻り、明日、また仕切り直そうと思う。
翌日、寝過ごした俺は急いで身支度をしてはエイリンの家へと向かった。
「あれっ?煙突から煙が出てない・・・。」
いつもこの時間は、エイリンは薬を作っていたから煙突から煙が出ていた。なのに、今日は誰もいないのか静寂を感じる。そこへ現れたのは、不動産屋の従業員だった。